『“記憶”と生きる 元「慰安婦」姜徳景の生涯』土井敏邦(大月書店)


関西でも近々、同名のドキュメンタリー映画が公開されるが、映画を観る前に何としても読んでおきたかった。
姜徳景ハルモニは金学順ハルモニに並んで、多くの人々の心に刻み込まれている日本軍「慰安婦」被害者だ。その小さ身体から発せられる怒りの言葉は、私たちの胸を貫いたし、たくさんの絵画、特に昭和天皇の処刑を描いた「責任者を処罰せよ」は、多くの日本人に責任者処罰の重要さと戦争責任のなんたるかを教えてくれた。そして、今際の際にあっても「私たちは死なない。日本政府が私たちを強くした。最後まで日本政府と闘い抜かないと」と語り、私たちに決意と覚悟を残した。
そんな姜徳景ハルモニの人生がどんなものであったのかを、私は知らなかった。もちろん証言を読んで、過去に受けた被害についてどのようなものであったのかは知っていた。富山の不二越に女子勤労挺身隊として強制動員され、重労働に耐えかねて脱走。2度目の脱走で憲兵と思わしき男に捕まり強姦、そのまま松代と推測される慰安所に監禁された。また、ナヌムの家に移る前に暮らしていたという農園の、想像を絶する物置小屋のような住まいも、映像で観たことはあった。でも、その人生全体、特に被害を受けてからの「戦後・解放後」についてはほとんど知らなかった。
帰国までの生活、妊娠・出産と子どもの死、加害男性に対する心情の揺らぎ、転々とする仕事、恋愛・結婚観、誰にも語られることのなかった男性のこと、酒浸りの日々、自暴自棄……。それらは多くの被害者に共通する人生でもありながら、姜徳景ハルモニ固有の具体的な体験でもある。そしてそれが具体的であればあるほど、私たちは被害者に共感し、その人が「特別」になる。
私にとっては裵奉奇さんと宋神道さんが「特別」で、それは在日一世のハルモニだからだと思っていた。多分それはそれでその通りなのだろう。でもこの本を読み進めるうちに、姜徳景ハルモニが「特別」になってゆくのに気づかされ、我ながら少々驚いた。
裵奉奇さんと宋神道さんは川田文子さんという書き手=フィルターを通じて私の忘れられない記憶となったように、土井敏邦さんというフィルターを通じて、やはり忘れられない記憶へと変わっていった。
実は本を読む前は、「“記憶”と生きる」とは、土井敏邦さんの個人的な思いだと思っていた。でもこの本を読むことで、姜徳景ハルモニが「特別」に変わっていくことに気づいて、私たち誰もが「“記憶”と生きる」ことができるのだと気付かされた。もちろん読み手の関心や感性にも左右されるとは思うけれど、それでも土井さんというフィルターを通じて私たちも「“記憶”と生きる」ことは可能なのだ。少なくとも私は姜徳景ハルモニの「“記憶”と生きる」ことを決意している。
いま、私は、姜徳景ハルモニの人生ひとつひとつを思い返し、噛みしめている。男性の私の拙い想像力では及ばないだろうけれど、それでもそれをやめようとは思わない。そして姜徳景ハルモニの最期の言葉を思い起こす。
「私たちは死なない」
姜徳景ハルモニが亡くなられて18年。でも私たちが謝罪と賠償を、真の解決を諦めない限り、ハルモニは亡くならない。記憶と共に、生き続ける。
そう信じて、戦後70年の今年の夏を闘おうと思う。

(補足)この企画は20年近くお蔵入りになっていたにも関わらず、世間に引っ張り出したのが、橋下「慰安婦」発言だった。私はこのことを重く受け止めたい。

(だい)

映画『“記憶”と生きる』の関西上映は、8月、十三シアターセブンにて




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