VAWW-RAC編「日本人「慰安婦」 ―愛国心と人身売買と―」

 「戦争と女性への暴力」リサーチ・アクション・センター編「日本人「慰安婦」 ―愛国心と人身売買と―」(現代書館)を読み終えました。

 日本人「慰安婦」問題は棘のような存在です。日本軍「慰安婦」問題に関心のある者はみな、日本人「慰安婦」被害者を常に気にかけているのに、目の前の政治課題になかなか据えられないでいます。被害者の尊厳回復を日本の問題として闘う中で、被害者が名乗り出ていない日本人「慰安婦」問題はどうしても後回しになってしまいがちです。目を背けているわけではないのに取り組みが後回しになってしまう、そういう後ろめたさが私の中にあります。
 一方で、橋下市長や小林よしのりのような詭弁家がいます。橋下市長は「慰安婦」制度は必要だったと主張し、米軍は沖縄の風俗産業を活用すべきと言うようなことを平気で言います。小林よしのりは、名乗り出ていない日本軍「慰安婦」は立派だと褒め称えます。ふたりにとって日本人「慰安婦」は、被害者ではありません。
 そういう感覚は、多くの日本人が共有しているものです。
 強制連行はなく、「商売」だったから被害者ではないという感覚も、根底は同じです。かつての遊郭で働いていた女性が「籠の鳥」と言われるような「性奴隷」(認めたくない人のために「債務奴隷」と言い換えてもいいです)であったと知っているにもかかわらず、あるいは「人さらい」に売られたような人もたくさんいたということを知っているにもかかわらず、「商売だから」「どこにでもあった」という言葉で正当化しようとするのです。

 日本軍「慰安婦」にさせられた女性は、「被害者」なのでしょうか?
 当然、「被害者」です。そのことをこの本は明快に答えてくれます。ある女性はあふれる前借金から逃れるために「慰安婦」となり、ある女性は人身売買の犠牲となり、またある女性は就業詐欺に遭い、軍属であった女性が「慰安婦」にさせられた例もあったようです。その全てが当時においても法律違反・犯罪でした。そしてそこにおける日本軍・政府の組織的関与は明らかです。
 それでも、その簡単な事実を周囲に「納得」させるのは、「理屈」だけではどうしても難しいように感じてしまいます。それは日本人「慰安婦」問題が、現在の性産業の問題と密接に関わっているからです。ほとんどの男性が、橋下市長と似たり寄ったりの女性観を持っていることを、私は知っています。
 そういう意味でも、この本の中に紹介されている菊丸さんの人生を紹介した記事、あるいは城田すず子さんをはじめとしてこれまで雑誌等でわかっている限りの日本人「慰安婦」にさせられた女性たちの人生をまとめたコラムは、秀逸でした。また「業者」をやっていた男性からの聴き取りも。こういう一人ひとりの生に触れると、理屈ではなく感情で、日本人「慰安婦」もまたまぎれもない被害者であったと納得できます。
 そして特に日本人「慰安婦」の人生に触れると、直接の被害よりも、戦後の責任の重たさを思い知らされます。被害の渦中にあるうちはそれが被害だと自覚できなくても、後にそれは表れるのです。
 名乗り出て、雑誌の取材を受けていた際中に自死した菊丸さん。遺書には
「ほかの女性は利口だったのよ。私のように馬鹿ではなかったのです」
と書き残していたそうです。
 なぜ彼女は人生を自己責任に帰し、命を断たねばならなかったのか。それは本人が自覚するよに、自己責任に言いあらわされるような被害だったのか?
 このルポを寄せた広田和子さんは、こう書いています。
 「菊丸さんの不完全燃焼の人生を、『慰安婦』であったことと結びつけるのは難しい。ただ取材中に感じた菊丸さんの心の奥にある何か、それは『肉体を売った』という事実、そのことから、本人自身が目をそらすことが出来なかったのではないか、泣いたり笑ったりした日常がどんなに多くあっても、心の奥にある事実は消えない。」
 これは日本軍「慰安婦」問題の根っこのところを言い当てていると思います。
 でも、橋下市長や小林よしのりのような御仁には、このことは理解できないんでしょうね。もちろん安倍首相にも。

 人生を狂わされるのが「慰安婦」被害者であるならば、狂わせたのは性奴隷制度であり、戦争であり軍隊です。橋下市長のいうような、慰安所を必要とする軍隊など、本当に必要なのでしょうか?
 安倍首相が談話の中で言う「戦場の陰には深く名誉と尊厳を傷つけられた女性たちがいたことも、忘れてはなりません」という言葉が、本当に空々しく感じます。安倍首相は海外の被害者ばかりでなく、同胞の「慰安婦」被害者にも向き合っていません。

 日本が戦争への道を歩み始めているいまだからこそ、読まれるべき一冊です。
(だい)
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