中原道子著『歴史は墨でぬりつぶせないーアジアの歴史と女性の人権』

中原道子『歴史は墨でぬりつぶせないーアジアの歴史と女性の人権』(スペース伽耶)を読み終えました。

VAWW-RAC共同代表で早稲田大学名誉教授である中原道子さんは、日本軍「慰安婦」問題アジア連帯会議のたびにお見かけするのですが、発言がいつも鋭く、また「私は学者である前に一人の市民だ」と仰っているのを聞き、とてもかっこいい生き方の人だなと思っていました。今回、こうして講演録や書かれた原稿が一冊のブックレットにまとめられ読む機会を得たのですが、その思いは一層深まりました。

このブックレットはもちろん日本軍「慰安婦」問題を軸に編集されていますが、その内容というよりは、そこからかいま見える中原さんの「視点」に新鮮さを覚えます。
例えばグァムの話。グァムは日本が唯一占領したアメリカの植民地で、そこにも日本軍は慰安所を作り、グァムの女性たちを「慰安婦」にしていました。そういうところに「ルンルン気分で新婚旅行」に行けるかと問い、「沖縄に駐留している海兵隊が今度グァム島に移るということを、私たちは手放しで喜べますか?」と問います。
例えば公文書の話。公文書は男性が書くものだと言い、植民地の女性には満足な教育など施されなかったと指摘します。そして「だから『慰安婦』募集の新聞広告を見て、『わたし働きます』なんて言ってくる女性なんかいないです」と喝破します。「公文書だけで歴史は書けない」と。
そして天皇制。この問題に関して、中原さんの舌鋒は一層輝きを増します。「かれ(昭和天皇)は戦争については非常に深い知識を持ってますでしょ?」
「どうして国民のことを考えなかったのかと聞くのもわたしは酷だと思います。かれにとって、一番大切なことは皇統を絶やさないことで、そのほかのことは二の次三の次だという、そういう教育を受けてきていたと思います。でも支配者としての責任はありますよね。そういうことでわたし、天皇に対しては、許せないという気持が非常に強いです。」
そういう、悔しいかな日本社会ではタブーとされている重たい課題に触れていて、颯爽とこう言うのです。
「わたしは生涯一度でいいから共和国に住みたい。世襲の絶対的な存在のいない民主的な共和国、日本共和国というのに住みたいな、と思いますけれど、夢でしょうね。」

別に目から鱗が落ちるようなことをおっしゃっているわけではないのです。ただ、そういう言葉が自然に出てくることが、私にとっては驚きなのです。
日本軍「慰安婦」問題を私のような人間が語るとき、とても身構えて重たく語ろうとしてしまいます。それは間違ったことではありません。だって重たい課題なのですから。だけれども、中原道子さんがそれを語るとき、辛辣な内容であるにもかかわらず、とても等身大で、説得力をもって聞こえるのです。
安直な言葉でいうなら、ただただカッコイイのです。
戦争を肌で覚え、教科書に墨を塗ることで価値観が転回するのを感じ、現人神が自己保身に汲々とした権力者だと知る。それを身を以て体験したものにしかわからないリアリティが、中原さんの言葉に息づいているのだと思います。

そういう身体性を持つ中原さんが日本軍「慰安婦」問題の本質を語るとき、全くその通りだと理解している事柄でも、私には新鮮に聞こえます。
「この問題の本質は日本を含む東アジア、東南アジア、太平洋の国々に生きる少女・女性が、日本軍により、何年にも渡り奴隷状態におかれ、残酷な性暴力を受けたという事実です。一人一人の少女・女性が自らの意思に反して、長期間、監禁され、複数の男性との性交を強いられたことです。結果として、肉体も精神も、回復が不可能なほどの深い傷を負い、さらに戦後解放されてからも、社会的には人間として恥辱と差別の中で苦しい人生を生きなければならなくなりました。これほど残酷な犯罪があるでしょうか。」
全く、思想とは生き方の中にあると実感するのは、私だけでしょうか?
言葉は思想と行動に裏打ちされると感嘆するのは、私だけでしょうか?

これは日本軍「慰安婦」問題の、学術ではなく、思想を学ぶ一冊です。感受性豊かな世代に勧めたい貴重な「入門書」です。
ぜひともお読みください。(だい)
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