「慰安婦」教材に関する大阪府教委交渉報告

2015年12月1日 「慰安婦」教材に関する大阪府教委交渉報告
大阪府教委は日本軍「慰安婦」被害者の被害事実を教えろ!


 2015年12月1日、「子どもたちに渡すな!あぶない教科書大阪の会」と「日本軍『慰安婦』問題・関西ネットワーク」とによる、「慰安婦」補助教材に関する大阪府教育委員会との交渉が行われました。府教委からは2名が対応、こちらからは両団体の他、「日の丸・君が代」不起立処分に反対する教職員・市民など約20人が参加しました。
 まず府教委側より、補助教材に至る経過説明がありました。
 朝日新聞の「吉田証言取り消し」を受けて、2014年の9月議会で維新の会の西田議員より「吉田証言が虚偽だったので、教科書の記述根拠がなくなった」と学校現場での教育の是正を求める質問をし、松井知事が「誤報を認めた限り強制の証拠がなくなった。間違った教科書で知識を得るのはマイナスなので、補完するための教材を配布する」と答えたことが、今回の発端です。
 これに対して府教委として対応策を協議し、補助教材を配布するのではなく、2月20付で通知「学校における適正な指導及び教材の適正な取扱について」を出し、学校現場で吉田証言に依拠するような授業をしているような場合には是正するよう通知を出しました。
 するとまたしても2月議会でこのことが取り上げられ、知事は「補助教材はしっかり出すようにする、総理談話も注視しながら」と答弁しました。
 そして府教委は安倍談話の発出を待ち、今回の教材作成に至ったわけです。


1,なぜ政府の見解しか教えないのか?

 なぜこの補助教材には政府の見解しか載せていないのか? 私たちがこのことを追求すると、府教委は以下のように答えました。
 2014年1月に改正された教科書検定基準では、「政府の統一的な見解や最高裁の判例がある場合には、それに基づいた記述をする」とある。そして編集に当たって、「客観的かつ公正な資料に基づいて、歴史の事実に関する理解を深めることが大切」であり、指導に当たって「多面的・多角的に考察し、公正に判断する能力を育むため史実の認識や評価に慎重を期する必要がある」ために、朝日新聞の「吉田証言の取り消し」という明白な事実と、種々の政府見解を取り上げることにした、と。
 私たちから見れば、この説明にはかなり無理があります。府教委は「多面的・多角的」と言いますが、今回の補助教材は国の見解を羅列しただけの一方的な教材にしか見えません。
 そして教材を普通に読めば、「慰安婦」問題はなかったとしか判断できません。朝日新聞の「吉田証言取り消し」があって、第1次安倍内閣の「強制連行の証拠はなかった閣議決定」があって……、しかしそういう指摘にしたいして、府教委は「でも河野談話も載せています」「安倍政権は河野談話を否定していない」と反論します。そして政府見解の中にも様々な見解があり、それが「多面的・多角的」であると主張するのです。最初は何を言っているのか分かりにくかったのですが、政府見解の変遷、つまり安倍政権が日本軍「慰安婦」問題を否定しようと企てたにもかかわらず、それをなしえず未だ河野談話を継承せざるを得ないことを学ぶことで、「多面的・多角的」な学習ができると考えているようなのです。

 しかし政府見解の羅列だけで高校生がそれを読み取るのは、相当に難しいと判断せざるをえません。そしてもし読み取る能力があったとしても「安倍政権はブレているな」と感じる程度で、その根本の問題、つまり日本軍「慰安婦」問題とはなんであるのかを学ぶことは、この教材からは不可能です。これは「『慰安婦』に関する日本政府の見解の変遷に関する補助教材」であったとしても、表題通りの「『慰安婦』に関する補助教材」ではありえません。


2,日本軍「慰安婦」被害者の被害体験を補助教材に記述せよ!

 日本軍「慰安婦」問題を学ぶための教材であるならば、被害者の証言――「慰安婦」にさせられた女性がどのような辛い体験をしたのかという被害事実を載せなければ、意味がありません。補助教材には被害者の証言を載せるべきだと私たちは強く主張し、そしてこのことが交渉の最大の焦点となりました。
 私たちは「証言こそが日本軍『慰安婦』問題を学ぶための必要不可欠な教材である」と主張し、「それは認めますよね」と追求すると、「証言は有効な教材である」と認めました。また現場教員が補助教材に追加して証言などを用いて授業を行うことも、否定しませんでした。
 しかし、補助教材に被害事実を追加記載すること、あるいは被害事実を含めた追加教材を作成することについては否定し、認めようとしませんでした。その可能性を検討することさえ否定しました。「それはなぜですか?」「断る理由はないでしょう」といくら問うても、何も答えようとしません。
 その材料、維新の会も否定しようのない被害事実を、こちらで用意しますよと提案しているにもかかわらず。

 被害事実を教えずに、本当に「多面的・多角的」で「客観的かつ公正」な学習が可能なのでしょうか? 府教委はそれが可能と言い張ります。なので私たちは問いました。
 「政府答弁はすべて真実なのか?」
 「真実ですよね」
 しかし現実には、11月10付の「抗議文および公開質問状」にも資料として添付しましたが、安倍政権の見解は国際的な批判を浴びています。2014年の国連自由権規約委員会の最終所見では「委員会は、締約国(日本)が、慰安所のこれらの女性たちの『募集、移送及び管理』は、軍又は軍のために行動した者たちにより、脅迫や強圧によって総じて本人たちの意に反して行われた事例が数多くあったとしているにもかかわらず、『慰安婦』は戦時中日本軍によって『強制的に連行』されたのではなかったとする締約国の矛盾する立場を懸念する」と、明確に批判されています。
 「多面的・多角的」とは、日本政府の主張と国際世論の対立の双方を学んで初めて学ぶことができるのであって、日本政府の見解を追いかけているだけでは絶対に学ぶことはできません。
 また安倍政権は現在、日本軍「慰安婦」問題の強制連行があったと認めようとはしませんが、「政府見解が絶対的に正しいのならば、強制連行はなかったと判断しているのか?」と問いました。
 その返答は、「強制連行があったかなかったかは事実として明確になっていない」です。
 大阪府教委は誤った理解をしています。強制連行があったことは、明確な事実です。これも府教委には事前に資料を渡していたのですが、中国人「慰安婦」裁判、あるいはオランダ人「慰安婦」裁判で、どう見ても強制連行としか判断できない被害が、裁判所で事実認定されています。
 いみじくも府教委の浅い理解が示したように、政府見解だけでは「多面的・多角的」で「客観的かつ公正」な理解など、できるはずがないのです。
 だから、まず、被害事実から学ぶことが必要なのです。証言が必要なのです。

 なぜ、補助教材に被害事実を追加記載すること、あるいは被害事実を含めた追加教材を作成することを、府教委は受け入れないのでしょうか?


3,吉田証言はなんの影響も与えていないのに?!

 松井知事が補助教材の作成を答弁した9月議会の後、府教委は対応を検討した結果、補助教材の作成ではなく、教育現場に「吉田証言を根拠に授業しないように」という指示で終わらせようとしました。しかし2月議会でまたしても蒸し返され、今回のような補助教材が作られる結果となりました。
 驚かされたのは、吉田証言が現在の教科書の記述に何らかの影響をあたえるものではないということを、府教委も交渉の最初から認め、しかも松井知事が補助教材を口にした当初から府教委は「教科書の記述を返るものではない」と認識していたということでした。
 吉田証言は1993年~1994年には「史料として使えない」と判断されており、現在の歴史学に何の影響も与えていません。それは学問の世界では常識であり、朝日新聞が吉田証言を取り消したからといって、高校の歴史教科書の記述に全く影響を与えるものでないことは、当然です。しかし、そういう正しい認識をしておきながらこのような教材と作るということであれば、重大さは全く異なります。
 教科書の記述に影響を与えないのであれば、なぜ今、朝日新聞の「吉田証言取り消し」を補助教材で教える必要があるのでしょうか? これは「多面的・多角的」とか言えるレベルではなく、高校生たちにとっては無用の混乱です。学校現場で最初から教えられていないものを、しかも日本軍「慰安婦」被害者の被害実態を教えられることなく、「吉田証言取り消し」を持ち込むのですから。こんなものはもはや歴史の教育ではありません。

 私たちは質問状で、「吉田証言を教育現場で教えている事実を調査しましたか?」と質問していましたが、回答は「調査はしていない」ということでした。調査することを思いつきもしなかったようです。
 維新の西田議員が「吉田証言が虚偽だったので、教科書の記述根拠がなくなった」と吠えたとき、もし府教委に抵抗する気があれば、「現場で吉田証言を根拠とする授業はなされていない」ということを確認するはずです。だって、現場で吉田証言に基づく授業なんてなされているわけがありません。済州島で日本軍「慰安婦」の強制連行があったなんて、誰が教えるでしょうか? それでなくとも、被害者がこれだけ名乗り出ているというのに、吉田証言を取り上げる意味がありません。授業で使われていないのであれば、このような教材を作成する理由もなくなります。
 ましてや府教委は最初から、吉田証言は教科書の記述に何ら影響を与えていないと知っていたのですから。
 ならばなぜ調査しなかったのか? 調査する必要を思いつきもしなかったのか?

 これから先は推測ですが、だれもが思っていることです。
 この問題は学術論争ではなく、「政治」だから。大阪府教委は維新の政治的圧力に対して徹底的に抵抗する気はなく、最初から膝を折っていたのです。
 それでも、府教委のことを好意的に判断するならば、維新の補助教材に対する圧力に対して2月20付通知「学校における適正な指導及び教材の適正な取扱について」で対応したことは、それなりに抵抗した結果なのだとは思います。そしてそれでも教材を作らなければならないことを迫られたとき、「強制連行はなかった」「『慰安婦』問題は虚偽である」という維新の意向を排し、「慰安婦」問題を否定しきれなかった安倍政権のブレを掲載したことは、府教委なりの抵抗だったのかも知れません。
 しかしそれは、残念ながら府教委の自己満足でしかありません。
 府教委は結局、教育ではなく、政治を選択したのです。
 教育行政が責任を持たなければならないのは、子どもたちの教育に対してだけです。子どもたちの教育に対してだけ誠実でなければならず、他のベクトルは一切不要です。教育行政に政治介入を許すなど、教育の「死」です。
 このような教材を押しつけられ、日本軍「慰安婦」問題のなんたるかを一切教えられない高校生たちは、不幸としかいいようがありません。

 府教委は、今回で交渉を終わらせようとしています。今回で十分に誠実に対応したと。
 しかし府教委は私たちの質問に、何も答えていません。
 なぜ、補助教材に被害事実を載せることができないのか? なぜ日本軍「慰安婦」問題のなんたるかを教えることができないのか?
 それが政治だからとか、維新の圧力に火を注ぐとか、そんな理由は納得できません。

 大阪府教委は、今一度、「教育とはなにであるのか?」と自問して欲しいと、切に願います。教育行政に誇りを持ち、生徒に対してだけ責任を持って欲しいです。
 私たちは何度でも大阪府教委に交渉を申し入れます。何度でも何度でも、日本軍「慰安婦」被害者の証言を、被害事実を突きつけます。そして正しい歴史認識に基づく日本軍「慰安婦」問題の教育を追求します。
 日本軍「慰安婦」被害者のために! そして未来を担う高校生たちのために! (だい)
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わたしたちは日本軍「慰安婦」問題解決のため、関西を中心に活動しています。

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