林博史著『日本軍「慰安婦」問題の核心』

 林博史著『日本軍「慰安婦」問題の核心』(花伝社)読了。この本は、林さんがこれまで発表した論文や講演録を合わせて編集したものであり、通読すると若干の読みづらさは感じるものの、歴史実証主義の立場から歴史歪曲攻撃にほぼ答えた内容になっている。

 この本は4部構成となっている。
 第Ⅰ部 問題の所在をめぐって
 ここでは本のタイトルにあるとおり、「核心」を、安倍首相や橋下元市長らの歴史認識を批判することを意識して展開されている。

 第Ⅱ部 資料に基づく日本軍「慰安婦」研究
 ここは林さんの真骨頂で、膨大な資料で、軍が主体となって慰安所を運営していたこと、具体的にどのような加害行為を行っていたのかを明らかにしている。

 第Ⅲ部 歴史史料隠蔽と歴史の偽造
 米英が解読した膨大な機密電報を紹介し、日本軍がいかに加害の隠蔽を図ろうとしたかにせまろうとしている。

 第Ⅳ部 米軍の性売買政策・性暴力
 米軍の性売買に対する政策を確認することにより、日本軍と違う点、共通する点をあぶり出している。

 私はこの第Ⅳ部が、もっとも興味深く読めたので、この章を中心に感想を記したい。

 橋下元市長や籾井NHK会長が「どこにでもあった」と言うとき、軍隊に性暴力はつきものだが、軍隊が組織的に、これほど大規模に、それこそ兵站から最前線まで慰安所を設置し、植民地から、占領地から女性を連行し監禁し強かんしたのは日本だけだったと、自信をもって言える。しかし他の国の軍隊が、この問題に対してどのような政策をとってきたのかは、勉強したことがなかった。
日本軍が日中戦争で慰安所制度を確立していった同時代、アメリカでは全く逆の政策を意図的に確立していったことに、私はとても興味を惹かれた。

 米軍は売春そのものを禁止していた。
 「基地周辺での赤線地区の存在を陸軍省は容認することはできない。(中略)この問題について唯一の実際的な政策は断固とした禁圧策である」(1917年)
 この政策は、性病の治療薬の開発やピューリタリズムの倫理観の後退を見た後でも、基本的には変わらない。兵士の売春宿の利用を押さえられずコンドームの推奨をすることはあっても、やはり今でも売春は認めていないし、ましてや管理売春などもってのほかだ。日本占領時に米軍はRAAを解散させたが、それも米軍の基本政策に基づいてのことだった。
 日本が慰安所を拡大させていた時期、米は「管理売春は性病を拡大させるだけ」と科学的に分析していた。日本軍は「性病を蔓延させないため」に管理売春を行ったが、それはさらに強かんを多発させ、最前線であっても占領地の住民女性を拉致監禁して「慰安婦」にしてもいいのだという意識を生み出した。米軍が科学的に考察して出した結論を、日本軍は本当に理解できていなかったのだろうか。
 吉見義明さんは日本軍が慰安所を設置した4つの理由の一つとして「日本軍の将兵に『性的慰安』を提供する」目的をあげていたが、これは私には一番しっくりする。そして橋下も籾井も「女をあてがっておけばいい」などという人権感覚の全くない考え方の持ち主だからこそ、「どこにでもあった」「沖縄の米軍はフーゾクを利用すべき」などと平気で言えるのだろう。
 もちろん米軍の性犯罪は戦時性暴力として現在でも問題になり続けている。それは日本軍「慰安婦」問題と共通する課題である。それを意識して読んだとしても、日本軍「慰安婦」問題とは特殊性のある組織犯罪であったと確信する。とても「どこにでもあった」と言えるようなものではない。

 「どこにでもあった」などと平気で言う人は、不勉強でも構わないと思っている人か、知った上で詭弁を弄しているかのどちらかだ。
不勉強でも構わないとか、詭弁を弄していると思われたくない人は、ぜひともこの本を読んで欲しい。
 もちろん、純粋に日本軍「慰安婦」問題を知る意味でも。日本軍「慰安婦」問題は、志を同じくする立場の人でもなかなか正しく理解されていないことも多い。私も理解しているつもりでいて、上に記したとおり、まだまだ知らないことも多かった。この20年で歴史研究は大きく進んでいる。現時点の到達点を確認する意味でも、この本を読むことは意味あるものと思う。(だい)

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