植村隆『真実 私は「捏造記者」ではない』

植村隆著『真実 私は「捏造記者」ではない』(岩波書店)を読みました。

植村さんは言わずと知れた、産経新聞や右派論壇に「捏造記者」と猛バッシングを受けた人。1991年8月11日、金学順さんが名乗り出る3日前に彼女の証言テープを聴いて朝日新聞にその第一報を書いたために言われもない批判を受けることになりました。朝日新聞を退職し松蔭女子学院に就職が決まっていた植村さんに対するバッシングは苛烈を極め、娘までもが殺害予告を受け、松蔭の職を失うことになりました。現在は西岡力と週刊文春に対する名誉毀損裁判を東京地裁で、櫻井よしこと週刊新潮・WiLL・週刊ダイヤモンドに対する名誉毀損裁判を札幌地裁で闘っています。

日本軍「慰安婦」問題という側面でだけみれば、植村さんが特筆した仕事をしたとは思えません。日本軍「慰安婦」問題がここまで大きな問題になったのは金学順さん自身が名乗り出たからであり、「記事が」ではなく、金学順さんの存在そのものが社会にインパクトを与えたからです。それに植村さん自身が書いているように、植村さんの配偶者が太平洋戦争犠牲者遺族会の幹部の子だということもあって、「慰安婦」問題からは距離をおいていたのだといいますし。

植村さんの記事は「強制連行」とは書いていませんし、「挺身隊」という言葉は当時の韓国では「慰安婦」と同義でした。当時の記事に接した人も、「慰安婦」か「挺身隊」かということで「捏造」などと思った人はいないのではないでしょうか。ましてや植村さんの記事では「強制連行」とは書いていないのに、批判する当の産経新聞では「強制連行」と書いているのですから。植村さんに対する誹謗中傷は、全く的外れです。

結局は、第一報を朝日新聞に書いたのが植村さんだったということと、植村さんの義母のことがあって「叩きやすかった」というだけにすぎません。そして奴らにとってみれば「慰安婦」問題の事実が何かということよりも、「慰安婦」問題を「叩く」ことこそが必要だったということなのでしょう。

今でも「強制連行はなかった」「性奴隷ではない」と、右派論壇ばかりか安倍首相自身が公言してはばかりません。もちろんそれは事実ではないのですが、「捏造記者」というレッテルと同様、事実が事実として通用しないのが今の日本です。

しかし、そういういわれなきバッシングを受けた被害者……というイメージだけで植村さんの人となりを捉えてはいけないのだということが、この本を読んでよくわかりました。

学生時代から韓国の民主化運動に関心を寄せ、ソウルでの語学留学時代にも手書きのミニ新聞で韓国情勢と日本の戦争責任を発信したそうです。大阪社会部時代には夕刊に「이우 사람(隣人)」というコラムを書き、在日コリアンの置かれた状況を報じました。特に在日韓国人政治犯問題には強い関心をもって取り組んだのだそうです。

その流れでの「慰安婦」問題です。金学順さんが名乗り出る前の1990年には「慰安婦」被害者の証言を取るために訪韓するも空振り。1991年に先述の第一報を報じますが、その後「慰安婦」問題については記事を一つ書いただけでテヘランへ異動することとなり、先述の通り本人の意志もあって距離をおくことになります。

韓国の民主化運動と在日コリアンの社会に対する植村さんの姿勢には、強く共感します。また1990年の取材中に知り合った彼女と、彼女の親の反対を押し切って駆け落ち同然で一緒になった愛を貫く生き方にも、感銘を覚えます。

金学順さんが名乗り出た直後、植村さんが当時雑誌「MILE」に書いた記事にこうあります。

「太平洋戦争回線から50年たって、やっと歴史の暗部に光が当たろうとしている。この歴史に対して、われわれ日本人は謙虚であらねばならないし、掘り起しの作業を急がねばならない。放置することは、ハルモニたちを見殺しにすることに他ならないのだ」

「慰安婦」問題からいったん距離をおいた植村さんは、先日、週刊金曜日に(自身の裁判等のことではなく)「慰安婦」問題の記事を書きました。25年たって、初めてのことだそうです。

その記事のことはこの本で知ったのではなく、この本を買う機会になった2月23日の大阪での集会で、植村さん自身がおっしゃっていたこと。

バッシングを受けた人間が立ち上がり、理不尽な攻撃をした者を裁判で訴えるなかで自分の正しさを再確認し、そして今また日本軍「慰安婦」被害者に向き合い、記事を書いています。とても素晴らしいことだし、わたしたちも勇気をもらったような気持ちになります。

きっと裁判には勝利するだろうし、またそうなるために私たちも努力しなければならないと改めて思いました。植村さんにかけられた攻撃は植村さん個人に対する攻撃ではなく、日本軍「慰安婦」被害者に対する攻撃であるし、日本の民主主義にかけられた攻撃です。

植村隆さんを応援しましょう!

そのためにも、この本をぜひ読んでください。

(だい)

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