宮本節子『AV出演を強要された彼女たち』

 宮本節子著『AV出演を強要された彼女たち』(ちくま新書)を読みました。日本軍「慰安婦」問題に関心のある人には必読の書です。

 AV被害はやっと昨年光が当てられ国会でも論議されましたが、この本を一読して私は確信しました。これは日本における現代の「慰安婦」問題です。
 日本軍「慰安婦」問題における政府の公式見解は2点に集約されるといっていいでしょう。つまり「強制連行はなかった」と「性奴隷ではない」です。つまり日本政府は「それは犯罪ではない」(あるいは業者の犯罪であって、国家の犯罪ではない)と言いたいのです。

 ではAV被害はどうなのか? 世間に流布されているイメージは、「お金儲けのために」「好きだから出演しているのだろう」です。これだけ世間に流布され、合法的に観ることのできるAVに犯罪が日常的に介在しているなんて思いません。しかしこれは犯罪です。この本はそれを確信させてくれます。

 AV出演は一応「契約」の形を伴います。ではなぜ契約に至るのか?詳細は本を読んでいただければと思うのですが、一言でいえばスカウトの巧みな話術にはまってしまうとしか言いようがありません。人気モデルになれるかのようにいい(女性はモデルと言ってもファッション誌からポルノまで幅広いことを知らない)、多額の報酬を得られるかのようにいい(不安定な職に就いている人にはそれは理想に映る)、親バレを心配する女性には「そんなに流通しないし映像技術もすごいから絶対にばれることはない」と言う。逃げ道を絶対に作りません。了承するまで続く執拗な誘い、気が付けば契約書にサインするしかなくなってしまうのです。世間では「サインをしたほうが悪い」という人が圧倒的多数なのでしょうが、社会的経験値は圧倒的にスカウトの側にあり、女性の側は20歳前後。スカウトは逃げ道を与えず、女性は巧みに追い込まれてゆくのです。
 そしてサインをしたらもう逃れられない。
 女性たちには何度も何度も耐えられないタイミングが訪れる。知らない男性とセックスを強要されることが分かったとき。撮影の最中。二回目の撮影。三回目の撮影。よりハードな撮影が求められたとき。コンビニの風俗雑誌に自分の姿を見つけたとき。商品が店頭に並んだとき。友人に噂されていることを知ったとき。ネットで映像が無限に拡散されていることを知ったとき。
 辞めたいといえば「お仕事でしょ」「この撮影のためにどれだけのスタッフが動いたと思っているの」「わがまま言うんじゃないと」と諭され、「違約金を払えるのか」と脅されます。撮影前なら100万円、何本か撮り終えた後の違約金は1000万円を超える場合もあるというから驚きです。(仕事をすればするほど経費がかさむため、損害も大きいということなのでしょう。)それでも抵抗すれば「親に話す(ばらす)」と言われ、自宅や学校に強面の男が複数人で押しかけてくることもあります。撮影が怖くなり契約を断るため事務所に単身で向き、その場でレイプされ、それを撮られた人もいるそうです。

 この本の著者は、このようなAV被害者の相談に乗り支援してきた人です。女性たちが相談に訪れるタイミングは様々ですが、AV業界から足を洗って長い年月が経つ人でも、過去の被害の記憶から逃れられないために相談に訪れるといいます。

 彼女たちの姿は、日本軍「慰安婦」被害者とまさに瓜二つです。

 日本政府の「強制連行はなかった」という言い分は、「契約したんだろ」という言い分と似ています。しかし現実に女性たちは言葉巧みに誘導され、騙されます。騙す側はプロ。社会人経験に乏しい彼女たちは格好の餌食です。それでも「騙されたほうが悪い」と誰が言えるでしょうか?

 そしてもうひとつの日本政府の主張である「性奴隷ではない」について。現代における奴隷制度の規定は、身体的に拘束されることだけではありません。例えば仕事を辞める自由がない状況。心の底から嫌な仕事を拒否できない状況(もちろん辞めることもできないという前提で。)その仕事に従事せざるを得ない社会的制度。それが「奴隷」ということです。
 AVを拒否したためにプロダクションに損害賠償請求された女性がいます。その裁判の判決文(要旨)がこれです。

 「アダルトビデオへの出演は芸能プロが指定する男性と性行為をすることを内容とするものであるから、本人の意に反して従事させることが許されない性質のものである。したがって、民法第628条により、契約を解除する「やむを得ない事由」に当たる。出演しなかったことは債務不履行には当たらない。」

 意に反した性行為は業務とは認められないのに、現実にはそれを強制される。やめたいといってもそれが許されない。それこそが「性奴隷」の本質なのです。
 人によっては「モデルの」体を作るためにジムに通わされ、プチ整形を行い、大学寮にいるものはタレント活動は不便だろからと部屋を借りられ、費用は事務所が肩代わりすることによって、彼女たちには本来の生活能力では返済できないような借金を背負わされます。違約金だけでも十分と思われるのに、騙す側はより巧妙に彼女たちを縛り上げていくのです。そして女性たちはそれが「騙された」とは思わない。自分が悪いのだと責める。
 現実問題として、著者の団体に相談に来る女性たちは「AVに出たくない」「親にばれたらどうしよう」「出回った映像を何とかしたい」という相談ではあるのだけれど、自分が被害者だと思っている人はひとりもいなかったのだそうです。契約した以上、それは仕事だからしかたがない、我慢できない自分が悪いと思っているのだそうです。多くは精神を病んで、相談におとずれるのです。
 日本軍「慰安婦」問題もそうです。被害者のすべてが自分を責めていました。日本政府が「民間業者がしたこと」と開き直ったからこそ、我慢できなくて名乗り出たのであって、そして支援団体や市民たちとの交流の中で「自分は悪くなかったのだ、日本政府が悪い。自分は被害者だったのだ」と自覚できるようになったのです。

 撮影の最中にそれを拒絶し部屋から逃げ出そうとした女性も、連れ戻され、その後撮影(レイプ)を続けられ、結果商品化された映像は本人も合意の上「嬉しそうに」見えるといいます。そのように編集するし、そもそも加害者側には被害者の気持ちなど斟酌しません。それが「加害」です。日本人の側が被害者の痛みを理解できなくても、それは痛みがなかったということにはなりません。
 AV出演を強要された彼女たちは現代における性奴隷というものを明確に示し、そしてそれは日本軍「慰安婦」被害者もやはり性奴隷であったのだと納得させてくれます。
 そしてそれゆえ、日本軍「慰安婦」問題は過去の歴史ではなく、現在進行形の人権問題なのです。
 みなさん、ぜひともこの本を手に取ってください。「性奴隷とは何か」を考える最良の書です。
(だい)

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